今回は、ジョージ・ワシントン橋を臨める高台にある地域、ワシントン・ハイツ。地元の人にハイツ(The Heights)と呼ばれ、映画「In the Heights」の舞台でもあります。厳しい時を乗り越え、マンハッタン島の中でも最も文化的に活気のある地区の一つと言われています。
1.歴史
ワシントン・ハイツは、20世紀以前は豪華な邸宅がある地区でした。その後、1900年代初期の公共交通機関の発展に伴い、中流階級のアイルランド系、東ヨーロッパ系、ナチスから逃れてきたドイツユダヤ人移民、ギリシャ、プエルトリコ、キューバそしてロシア系が移ってきました。
1950~1960年代、ラテン系、プエルトリコやキューバ、特にドミニカ系の人達が増加。ワシントン・ハイツの一角がリトル・ドミニカン・リパブリック(Little Dominican Republic)と呼ばれ、ドミニカ共和国(DR)の主都にちなんだ、リトル・サン・ドミンゴのニックネームもあるそうです。1960~1970年代になると多くの裕福な白人住民はここを離れ郊外へ移り住みます。
この間、人種や宗教間の軋轢、ギャング集団のテリトリー争いが勃発。映画「ウエストサイド物語」は、Wikiによると1957年のNY市となっているので、描かれたギャング間の抗争の舞台は、ワシントン・ハイツ近辺ではないかと個人的には思っています。
1980年代から1990年代にかけて殺人を含む多数の犯罪やコカインの氾濫。後に犯罪率が激減し、2010年代に入ると、住民の収入増加に伴い貧困率、失業率が減少します。しかし、次に地域の再開発が家賃の高騰を招き、犯罪とコカインから地域を救った人々は家賃高騰に直面する事になりました。なかなか厳しい現状です。
2.地下鉄191丁目駅(Subway 191st Station)
NY市地下鉄1番線の191丁目駅には、二つの特徴があります。
一つ目は深さです。NY市地下鉄で最も深く、地上から53メートルの深さ。実際に、駅構内には入っていないのですが、ホームに行くためエレベーターを利用するようで、一時期、動かない事も多く利用者にとって不便極まりなかったようです。今もそうかもしれません。
二つ目は、駅入り口からのトンネルに描かれた壁画。ブロードウェイの入口から駅入り口まで約270メートルの長さのトンネルがあり、そこには2000年代後半から、個性ある壁画が描かれています。壁すべてに絵が描かれている事に目を見張りますが、私が見た壁画には、残念ながら芸術性はあまり感じませんでした。
駅の環境は、1990年代初期は犯罪率も高く、危険な場所だったそうです。今回、昼間にグループで訪れた事、そして壁画がカラフルな事もあり明るく危険な印象はなかったです。ただ、トンネルがかなり長く逃げ道がないので日中でも落ち着かない感じは拭えず、ゴミも散在し綺麗とは言えませんでした。
ご興味があれば昼間に数人で行く事を勧めますが、日が暮れてからの利用は、身の安全のためにもやめた方が良いと強く思います。
3.ベネット公園(Bennet Park)
ベネット公園は、なんと!マンハッタンで一番高い場所(海抜約81メートル)にあります。NY市で一番高い場所は、スタテン島のトッド・ヒル(Todt Hill)海抜122 mです。
またここは、アメリカ独立戦争時1776年、ジョージ・ワシントン将軍が、高台ゆえにワシントン砦(Fort Washington)を築き、その後、イギリス軍の攻撃により占領され敗北した場所。戦争後、砦の痕跡もなくなりますが、ワシントン・ハイツと知られるようになります。New York Heraldを創立したジェームス・ゴードン・ベネットが、1871年に土地を購入し、紆余曲折を経て、NY市の公園となりました。
公園には、モニュメントのようにある大砲が、砦の面影を残しています。
また、NY市のベッドロックである結晶片岩のシスト(schist)の岩肌がむき出しになっている所もあり、一見荒々しい印象ですが、至って普通の公園で、子供たちが元気いっぱい走り回っていました。183丁目と185丁目にあります。
4.ハドソン・ビュー・ガーデンズ(Hudson View Gardens)
ハドソン・ビュー・ガーデンズは、ベネット公園の真横、パインハースト・アベニュー(Pinehurst Avenue)奥にあるチューダー調のアパート群です。ベネット公園同様、高台ににあるので、名前の通りハドソン川を望めるそうです。ちらっと見ただけですが綺麗に整えられた建物や庭があり、2016年に米国歴史登録地区になったのも納得。
地下鉄191丁目駅とその近辺からほんの10ブロック程離れているだけですが、環境、の違いに驚きました、別世界でした。
5.ジョージワシントン橋(George Washington Bridge)
ジョージ・ワシントン橋は、ハドソン川にかかる二層の吊り橋で、ニュージャージー州フォート・リー(Fort Lee)とニューヨーク州ワイントン・ハイツ地区を結びます。アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンの名が付き、世界で最も交通量の多い橋です。
二つの州を繋ぐ重要な橋でもあったので、911の当時、この橋を攻撃されるのではないか、と通る度すごく不安になった事を思い出します。また、 2009年に飛行機が不時着したのは、この橋の南側のハドソン川でした。
上層では、歩行者や自転車も通れます。ただ、自動車の通行料が高い!NY市近郊の橋では最も高く、知らぬ間にあれよあれよと料金がどんどん上がっています。
日本語では、略して「ジョー・ワシ」。英語の会話では、The GW Bridge, the GWB, the GWやthe Georgeと言われます。
6.リトル・レッド灯台(Little Red Light)
リトル・レッド灯台は、巨大なジョージ・ワシントン橋の下にある、ほんの12メートル程の小さな真っ赤な灯台です。NY市公園局が所有しており、米国国家歴史登録財そしてNYCランドマークでもあります。ハドソン川に沿ってあるフォート・ワシントン公園内のジェフリー・フック(Jeffrey’s Hook)にありますが、現在は灯台として使用されていません。
また、この灯台の物語が、1942年に絵本The Little Red Lighthouse and the Great Gray Bridge になっています。この灯台が解体されそうになった時、市民、特にこの絵本の読者である子供達からの反対があり残されました。絵本の人気の高さがうかがえます。
7.ジェイ・フッド・ライト公園(J. Hood Wright Park)
銀行家で慈善家のジェームス・フッド・ライト(James Hodd Wright) の寄付による公園です。
ベネット公園同様、高台にあり、ジョージ・ワシントン橋の眺め、特に夜は綺麗です。映画「イン・ザ・ハイツ」にもいい感じに出てきます。
ここにも岩肌がむき出しの箇所もありますが、子供も大人も楽しく遊んでおり、地域の人の憩いの場のようでした。
8.まとめ
独立戦争の戦場の一つでもあり、民族や宗教の軋轢、一時は、米国のコカインの主都とまで言われた地区。一部に快適な暮らしが出来る場所もあるようですし、通りも比較的綺麗でしたが、豊かな印象はありませんでした。それでも、公園で生き生きと遊ぶ子供達が印象的でしたし、GW橋が人々の生活を見守っているようにも思えました。
ハドソン川沿いや公園近辺以外の場所は、特別な関心がなければ観光で行く場所ではないかと個人的には思います。
映画「イン・ザ・ハイツ」では、それぞれの人がより良い生活を求め、小さな夢:スエニート(sueñitos)を追求している姿が描かれています。映画は所詮作り物かもしれませんが、製作者側の溢れる地域愛も感じました。機会があれば、ご覧になってください。
交 通
壁画のトンネルには、NYC地下鉄1号線191駅です。
ベネット公園やハドソン・ビュー・ガーデンズへは、A線181丁目駅から写真にある階段を上った所にあり、
ジェイ・フッド・ライト公園へは、A線175 丁目駅出てすぐ横にあります。
謝 意
Thank you for Sally to lead the walk and to show the group around in this
neiborhood.
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