
クイーンズ区リッジウッドは、17世紀頃イギリス人が入植し、1898年にNY市に統合されるまで田舎のままだったそうです。一方で、真隣のブルックリン区にあるブッシュウィックには、オランダ人が入植し、19世紀には開発されていた街。かつて、クイーンズとブルックリンの境界線をめぐってもめた事もあるそうで、数世紀前からライバル関係だったのでしょうか。
ブッシュウィックに比べ出遅れた感のあるリッジウッドでしたが、1909年のクイーンズボロー橋の開通でクイーンズとマンハッタンとが結ばれ、20世紀初期、2~3階建ての連棟住宅(Row Houses)など、5000棟以上の建物の建設、道路、交通機関や公共施設の整備や改善で、どんどん開発されました。

1910年の国勢調査によると、リッジウッドは労働者階級でドイツ系や東ヨーロッパ系の人が多かったそうで、1908年初刊のリッジウッド・タイムスは英語とドイツ語で発行されたとの事。その後、20世紀中期に、ルーマニア、セルビア(Serbs)やプエルトリコから、後期には、ポーランド、ドミニカ、エクアドールから人々がリッジウッドへ。街の多様化が進みます。2010年の国勢調査では、49%ヒスパニック系、白人39.8%、アジア系7.7%です。

加えて、街には数々のの歴史地区があり、10地区が国家歴史登録財、4地区はNY市ランドマーク、そして、個別の建物が歴史登録財となっています。歩いていると目の保養になるような見事な黄色のレンガ造りや美しい曲線の建物があり、また、個性的なレストランやカフェも数々ある街です。
1.黄色いレンガ連棟住宅( Yellow-Brick Row Houses)

主に1910年代に建設された ネオ・ルネサンス様式で、特徴的な黄色いレンガで建てられた2~3階建ての低層連棟住宅(Row Houses)は、同じ建築家が5,000以上の建物を設計したそうで、街の至る所に黄色の建物があります。典型的な赤レンガより耐久性のある黄色いレンガを採用し、労働者向けの高品質な住宅として設計されたそうです。

これら建物の多くは手入れが行き届いており、建設当時と同じ状態、手つかずの魅力が残っており、それがリッジウッドらしさだそうです。
1905年に建築規制条例(Zoning)が可決され、それまでの木造建築ではなく、新しい建物は石造建築である事が義務付けられたのも、レンガ造りの家が多い理由かもしれません。
2.ゴッチェーアとゴッチェーア・ホール・タバーン(Gottscheer & Gottscheer Hall Tavern)

ゴッチェーア(Gottscheer)は、かつてのオーストリア=ハンガリー帝国領(現在のスロベニア南部)のゴッチェー(Gottschee)地方に住み、独特のドイツ語方言を話していたドイツ系民族の事。第一次世界大戦後、地域は ユーゴスラビア王国 に編入。そして第二次世界大戦中は、ナチス・ドイツとイタリアの政策の影響により、多くの人々はドイツ領や他地域に強制移住や追放となったそう。大戦後、ゴッチェーアのドイツ語文化はほぼ消滅し、ゴッチェーア人はオーストリア、ドイツ、アメリカなどへ移住し、故郷を失ったそうです。
単語のGottscheerはゴッチェー地方の住民、特にドイツ系の人々の事で、発音は、ドイツ語だとゴッチェーア、英語だとゴッチャー。ゴッチェー(Gottschee)は地区です。

このゴッチェーアの人達が集っていたゴッチェーア・ホール・タバーンは、1924年オープン、2024年で100周年を祝った広いホールを備えたドイツ系パブです。さまざまなイベントを催し、なんと、ミス・コンテストも行われています。
店外にやたらとGottscheerの文字があり、一見「普通のパブやん!」と思ってしまったのですが、故郷を追われたゴッチェーアの人々が集い助け合う場所だったとわかったとたん、コロリと一気に感慨深くなり、一人苦笑い。
恐らく戦後と思われますが、リッジウッド近郊は世界最大のゴッチェーア人口だったそうです。



3.聖マティアス・ローマカトリック教会St. Matthias’ Roman Catholic Church

聖マティアス・ローマカトリック教会は、イタリアン・ルネッサンス・リバイバル様式で、1909年に建築されました。国家歴史登録財でもあるこの荘厳な教会は、カタルバ・アベニュー(Catalpa Avenue)にあります。
通常、ミサが行われいる時以外は残念ながら中には入れないそうですが、通りかかった地元を愛する人が交渉してくれ、中に入ることができました。中はナチスからの剝奪を逃れた見事なシャンデリアを含め、ステンドグラス、支柱に目を奪われます。
同じ人が、マーティン・スコセーシー監督、ロバート・デニーロやイースト・ハーレム出身のアル・パチーノが出演するギャング系映画「Irishman」がこのカタルパ・アベニューで撮影されたと、熱く語ってくれました。


4.ヴァンダー・エンデ – オンダードンク・ハウス(Vander Ende – Onderdonk House)

ヴァンダー・エンデ – オンダードンク・ハウスは、1709年にオランダ人移民によって建設された、NY市で最も古いオランダ植民地時代の石造りの家です。当初、 Vander Ende 家が所有し、その後 Onderdonk 家が引き継いだそう。だから両家の名前の合体か、とにかく長い。。。

1975年に火災で一部が損傷。その後修復され、博物館として公開されています。当時の生活様式を再現した展示があり、またオリジナルの石造りの壁が一部残っています。家の中は各部屋小さくまとまっているので、昔のオランダ人は今より小柄だったのかなあ、と思ったりもしました。
場所はリッジウッドとブッシュウィックとの境界に近く、境界線を示していた石の記念碑が残されています。
庭は広く、季節の良い時はお花も綺麗に咲いていましたし、結婚式も行われるそうですので、いかがですか。



5.個性溢れるカフェ

リッジウッドには、ドイツ語で、コンディトライ (Konditorei)と言われるパティスリーとカフェを併設した店や、新品や古本屋と併設したカフェなど個性的なカフェが数々ありました。その中のほんの数軒ですが、ご紹介します。
・ルディーズ・ペーストリー・ショップ(Rudy’s Pastry Shop )
はコンディトライで、伝統的なお菓子を提供。
http://www.rudysbakeryandcafe.com/

・ノーマズ・コーナー・ショップ(Norma’s Corner Shoppe)
Norma’s
・Abracadabra Magic Diner (トルコと地中海系オーガニック)
Best Diner in Ridgewood, NY | Abracadabra Magic Diner
・Topo’s(古本) とTopo’s Too(新品)
Home | Topos Bookstore
・Milk & Pull
Milk & Pull | Neighborhood Coffee & Espresso Bar in Brooklyn, NY

・Honey Moon(本屋カフェ)
https://honeymooncoffee.shop/pages/w
さらに、リッジウッドに近いブッシュウィックに、
・Headrest HEADREST COFFEE
・HMG(Hive Mind Books、本屋カフェ)
Hive Mind Books – Bushwick’s Queer Bookstore & Coffeeshop
座ってゆっくりお茶したり本を読んだりと寛げる場所はたくさんあります。


6.モーシャー豚肉店(Morcsher’s Pork Store)
モーシャー豚肉店は、上質なドイツ、ポーランド、オーストリアやユーゴスラビアの肉製品を扱い、Kielbasa(キールバサ)と言われるポーランド起源のソーセージなども販売していたました。年季が入って、しかもヨーロッパ感ムンムン。美味しそうで、種類の多さにびっくり。製品名も何を買っていいのかもわからず、一見さんはおどおどしてしまいそうでしたが、温かい印象のお店でした。しかし、2024年に残念ながら閉店したそうです。リッジウッドで 、開店以来70年近く営業し愛された続けたお店を惜しむ声が後を絶たなかったそうです。恐らくリッジウッドの歴史を垣間見れる場所であったかと思います。敬意を表して載せます。閉店前にニュースになっていました。https://www.youtube.com/watch?v=vVmNhrTuIU8


7.まとめ
リッジウッドは、雑誌Time Out のWorld’s coolest’ neighborhood2022年版で、世界で4番目にクールな街として選出され、近年、若手プロフェッショナルやアーティスト達が増えているそうです。ちなみに同年、東京の下北沢が7番目。
特徴的な黄色いレンガの建物、そして歴史地区も多く、ウイリアムズバーグ程開発されていないのも魅力。数々のカフェ、古着屋、古本屋やレコード屋などもあり、落ち着いた感じで、それでいてどこか懐かしさを感じる素敵な街でした。
NJ州にもリッジウッドはありますが、こちらは高級住宅街です。お間違えの無いように。

行き方
NY市地下鉄 L線Myrtle-Wyckoff Ave.駅、またはM線Seneca Ave.駅かForest Ave.駅が便利

謝 意
I’m so grateful to David L., Kevin, Windy and Tim for showing me around various places and sharing their knowledge, and Maria F., Karen V., Donna M., Ruth S., John K. for allowing me to use their photos.

参 照
・Onofri, Adrienne. Walking Queens. Wilderness Press, 2014.
・Ridgewood, Queens – Wikipedia
・Time Out picks the ‘world’s coolest’ neighborhood for 2022 | CNN
・A Ridgewood social hall built by immigrants: Our Neighborhood, The Way it Was – QNS
