ニューヨーク市の人気の観光地の一つでいつも賑わっているマンハッタンのチャイナタウン。近隣のリトル・イタリーと共によく知られたエリアです。ダウンタウンにあるチャイナタウンは、フラッシングとサンセットパークについでNY市内で3番目の規模です。
今回は、あまり知られていないであろうこのチャイナタウンの一面と、そこに暮らした人々の様子を紹介出来たらと思います。


1.孔子プラザ(Confucius Plaza)

孔子プラザは、イースト・ビレッジまで続く賑やかな通りバワリー(Bowery)とディビジョン・ストリートの交わる角にある孔子の銅像が目印です。台座に「知識こそが力なり」などの格言が刻まれています。孔子像の北側には、同名の孔子プラザという茶色の高いビルの大型集合住宅があります。
2.キムラウ・スクエア(Kimlau Square)


キムラウ・スクエアには中国系アメリカ人の戦没者を追悼する記念碑とアヘン撲滅運動で知られる 林則徐(Lin Zexu) の銅像があります。林則徐は、中国の清朝時代の高官で、「麻薬との戦いの先駆者」として評価されている人です。1839年に広州で大量のアヘンを押収・焼却し、これが1840~1842年の第一次アヘン戦争の引き金となったそうです。
このスクエアと孔子プラザ周辺は、観光客や地元民が集まるハブのようで、祝日や記念日には、ここを起点とするパレードや儀式、イベントが行われるようです。
3.ドイヤーズ・ストリート(Doyers Street)


写真左てからぐっと道は曲がります。
中華街のメイン・ストリートから入った所にあり、少し曲がっている細い道です。数十年前、中国系ギャングの闘争があり、Bloody Angleと言われていたそうです。写真では賑わい感が出ていませんが、いつも観光客で溢れかえっています。
また、誰も気づかないような超地味な郵便局があります。
4.ローマ・カトリック教会(Roman Catholic Church of the Transfiguration)

ローマ・カトリック教会は、1801年に建てられた教会。場所柄ゆえでしょう、中国系の信徒が多く、ミサは英語、広東語(Cantonese)と北京語( Mandarin)で行われており、学校も併設されています。高いビルがないからかどこからでも尖塔は見えますし、チャイナ・タウンの写真によく写り込んでいます。 19世紀当時の主な移民であったアイルランド系、イタリア系、そして現在は中国系コミュニティの精神的支えだそうです。 一説には、船でマンハッタンに到着した移民たちが、この教会の塔を最初に見つけて安心したという話もあるそうです。米国国家歴史登録財でNY市ランドマークです。
5.モスコ・ストリート(Mosco Street)

右手はローマ・カトリック教会

右手、白い入り口は葬儀屋
ローマ・カトリック教会の真横にあるなだらかな坂道の小路モスコ・ストリートにはランプが並び、少しですが壁画もあります。ここを下ったマルベリー・ストリート沿いには、葬儀屋が数軒並んでいます。昔、貧民街でギャングの闘争が多く大忙しだったのか、それとも単純に教会のそばだからでしょうか。

Photo :Lisa O.

6.コロンバス公園(Columbus Park)

コロンバス公園は、マルベリー・ベント公園(公園横のマルベリー・ストリートが少し曲がっている所があるからかと)、ファイブ・ポイント公園はたまたパラダイス公園として知られていたそうです。
公園には、中国の革命家で、1912年に中華民国を建国した初代臨時大総統として知られている孫文(Sun Yat-sen)の銅像があり、その付近にはチェスの出来る数々のテーブル、またバスケット・コートもあります。


中国系の年配の人々は、テーブルでチェス、麻雀(?)かカード遊びをしています。特におばちゃんテーブルはトランプ遊びをしており、あの半端ない熱気と勢いで、賭けている!と密かに確信していました。
7.コレクト・ポンド(Collect Pond)とファイブ・ポイント(Five Points)

コロンバス公園のすぐ近くにコレクト・ポンド公園があります。
そこは17世紀から19世紀初頭にかけて、NY市の主要な水源で、地下水によって供給されていた淡水池Collect Pond(コレクト・ポンド)の一部のようです。18世紀には、池の周囲に醸造所、屠殺場、なめし革工場などの建設後、廃棄物が池に流れ込み、水質の悪化が深刻化。1811年に埋め立てられますが、地盤沈下、排水不良、地域の湿地化、そして蚊の繁殖地となり、衛生状態が増悪。結果、富裕層は地域を離れ、貧困層、特にアイルランド系、イタリア系、アフリカ系、そしてユダヤ系が流入。主に彼ら向けの狭く過密で不衛生な劣悪な環境の集合住宅であるテネメント(Tenements)も集中してありました。

マルベリー・ストリート
また、ギャングの悪行や暴力事件に警察も手を焼くほど治安が深刻化。5つの道路が一点で交差していたことに由来するファイブ・ポイント(Five Points)は全米でも有数の危険地帯、悪名高いスラム街となります。19世紀半ばの事です。
米国生まれの住人達の組織とアイルランド移民達の組織の対立を描いたR指定映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」はファイブ・ポイントが舞台で、当時の様子が描かれています。
加えて、アフリカ系とアイルランド系のリズム文化が混ざり合って、タップダンスが生まれたとも言われています。
1960年、Collect Pondの跡地は公園として整備されました。
現在、近隣には悪を裁く裁判所や官公庁が建ちならんでいます。


余談ですが、上記の白黒写真はデンマーク生まれのアメリカ人社会派ドキュメンタリー写真家ジェイコブ・リース(Jacob Riis)によるものです。19世紀末のニューヨーク市における貧困層の過酷な生活環境を表した「How the Other Half Lives」が代表作です。
8.エルダリッジ・シナゴグ(Eldridge Street Synagogue)

エルダリッジ・シナゴグは、エルダリッジ通りにあるシナゴグ(ユダヤ教の礼拝所)です。主にロシアやポーランドなどからのアシュケナジ系ユダヤ人によって、1887年に米国で最初に建設された豪華なシナゴーグの一つ。
当時のロウアー・イースト・サイドは移民の街であり、礼拝には毎週何千人もが訪れたそうです。しかし、第二次世界大戦後、住民の多くが郊外へ移り、次第に建物は荒れ始めました。保存運動によって20年かけての修復工事が終わり、現在は礼拝も行われ、また博物館でもあるので見学できます。




建物はそこまで大きくはありませんが、内部には、東にある目が覚めるような青色が特徴のローズ・ウインドーと西にも美しいローズ・ウインドーがあります。東側のウインドーは比較的新しいようです。
現在はどうなのかわかりませんが、かつては男性が一階、女性と子供が二階席と分けられていたそうです。
米国国家歴史登、録財、米国国定歴史建造物、ニューヨーク州歴史登録財、NY市ランドマークです。

神聖な場所 女性はガイド


9.ユダヤ人墓地(The First Jewish Cemetery )

この墓地は、アメリカ大陸で最も古いユダヤ人墓地の一つで、米国国家歴史登録財でありNY市ランドマークです。
1654年、スペイン・ポルトガル系のセファルディ系ユダヤ人、数十人が、ニュー・アムステルダム(現在のニューヨーク)に移住。そして、アメリカで最初のユダヤ教組織となるシェアリス・イスラエル会衆(Congregation Shearith Israel)を設立し、1656年から埋葬が行われていたようです。1683年に、市当局から正式に墓地使用の許可を得たとの事。サイド・ウォークよりかなり高い位置にあり、ビルとフェンスに囲まれ、こじんまりした土地にひっそりと佇んでいます。

10.その他

・アメリカ中国人博物館
(Museum of Chinese in America: MOCA)
中国系移民の歴史と文化の保存・展示、および中国系移民の体験や貢献の紹介と理解を深めることを目的とした無料の博物館です。1980年に設立です。
こじんまりしていますが、資料や展示がびっしり。ロビーにはテーブルもあり寛げるスペースもあり。
休憩にもってこいやん!感あります。

・ホール・オブ・セント・ジェームス・スクール
(Hall of St. James School)
19世紀から20世紀にかけて地域社会に深く根ざした歴史的カトリック系学校。多くの移民の子ども達、恐らくですが、主に貧困層のアイルランド系移民のためだったと思われます。

・アフリカ人墓地国立記念碑
(African Burial Ground National Monument)
コレクト・ポンド公園すぐに米国で最も古く最大規模のアフリカ系アメリカ人の埋葬地を記念する国立記念碑があります。教会の墓地への埋葬が許可されなかったアフリカ系住人の埋葬地として1630年代半ばから1795年まで使用されました。6.6エーカーの広さに15,000~20,000人のアフリカ系住民が埋葬されたと推定されています。また、1991年にも連邦政府の建設計画中に419体の人骨が発掘されています。
11.まとめ
劣悪な環境でもたくましく生き抜いたいろいろな移民の人々の歴史があるチャイナタウン。また、コロンバス公園横から広がる裁判所等の官公庁の立派な建物が並ぶシビック・センター地区との対極さへの驚き。美味しい料理が食べられる場所としか思っていなかったチャイナタウンのパワーと魅力を改めて感じました。次回、訪れる機会に何かの参考にして頂けると嬉しいです。
道路は常に混み合っている事もあり、あくまで個人的な印象ですが、運転手はいらいら気味で若干運転が荒い気がします。車に充分気をつけてください。




行き方
NY市地下鉄6番線Canal Street 駅が近くて便利

Acknowledgements
・I’m so grateful to Kevin K. for showing me around and sharing his knowledge.
Also, to Cat-M. L., Lisa O., Mary G., Zuri. for allowing me to use their photos.
